論文完成まで,その後

ブンゴマでのウンカ・ヨコバイの個体群調査は2007年の3月から一年半にわたり続き,この間,キディアバイとロマヌスが完璧に仕事をしてくれて,穴の無い素晴らしいデータがとれました.途中3ヶ月ほど,ケニア大統領選後の混乱のためエタノールが手に入らず,トラップの調査が止まってしまったのは残念でした.しかし,むしろ情勢を考えれば,この間にも(エタノールを使わない)バキュームサンプリングを継続してくれたことは有り難かったです.採集された虫はヨコバイが約1万2千頭,ウンカが3千頭で,これにビタで採れた虫も加わったので捕獲数は2万頭以上となりました.私は2007年の秋から日本で仕事が始まったため,年に一度ケニアで標本を受け取って,手続きをしてから日本に運ぶ,という「運び屋」役を務めました.
虫のソーティング(仕分け)作業は,アフリカ産ウンカ科の分類を卒業研究としていた,東京農大のF君が担当してくれました.状態の悪い標本も多く含まれる,膨大な標本のソーティングはさぞかし困難な作業だったであろうと思います.また,アフリカのウンカ・ヨコバイ類の分類はまだ充分に整理されておらず,未記載種も沢山入っていたようでした.私も少し作業を分担しようと思って試みましたが,とてもじゃないが生半可な手伝いではかえって足を引っ張るだけだと思って諦めました.標本を後日,ドイツの専門家に送って確認してもらったところ,F君の同定がほぼ正しかったことが確認され,胸をなで下ろしました.いや〜F君,あんたは凄い.一年ほどしてF君から,労力の結晶のようなデータファイルが届きました.
データを整理してみると,特にバキュームサンプリングでは種ごとの発生消長が明瞭に現れており,短雨期後にピークをもつ類似した発生パターンを持つ種が多いことがわかりました.さらに詳しく分析して,各種の飛翔性の性差や,健全株と萎縮病発病株における個体数の違いなどについて調べ,論文を書いて投稿しました.この論文は,査読者から概ね好意的なコメントがもらえるにも拘わらず,何らかの問題点を指摘されて一発でリジェクトされる,という原稿で,結局4誌からリジェクトをくらい,完成から1年半かかって,Journal of Pest Scienceという雑誌に受理されました.ただ虫を数えただけのデータですが,多くの人の多くの労力が形になり,こちらとしても肩の荷が降りました.
ビタでの実験の方はKhanさん達が継続し,ネピアグラス上に優占するMaiestas banda(ヨコバイ科)が接種実験の結果,ファイトプラズマの伝搬能力を持つことが確認されました.現在,この種の食性や生態に関する研究が進められているほか,ネピアグラスの抵抗性品種(ファイトプラズマに感染しても病徴が発現しにくい品種)の探索も行われています.このヨコバイの生態については殆ど分かっていないようなので,また機会があれば調査したいと思っています.



ウンカ・ヨコバイ類へのファイトプラズマ接種実験を行った温室(2011年).ずいぶん研究場所っぽくなった.



ネピアグラスのファイトプラズマ抵抗性品種を探索するための予備実験.Maiestas banda(イナズマヨコバイの仲間)にファイトプラズマ感染株を吸汁させ,その後ネピアグラスの様々な品種をケージ内に入れて吸汁させ,発病の有無を調べる.



Napier stuntは,トウジンビエやイネなどに対しても萎縮病を引き起こすことがわかった(写真はトウジンビエ).ネピアグラスだけでなく,これらの穀物も含めた対策が必要だ.



2011年の3月はビタでユスリカが大発生して,電灯の下はどこでもこんな状況になった.