Wiga再訪

4月も半ばを過ぎて例年だと長雨期に入る頃ですが,ビタではここ数週間,雨が降りません.農家にとっては種まき直後の大事な時期だけに心配なことです.2005年にWigaで野外実験をした時も雨が少なくて植物が枯れ,村の井戸水も塩水で使えなくて,本当に困ったことを思い出します.手の打ちようが無いので,研究費で祈祷師を雇って雨乞いでもしてもらおうか,と半ば本気で考えたものでした(実現はしませんでしたが).今回の実験圃場はICIPEの構内にあってスプリンクラーが使えるので,雨不足の問題は解消されています.しかし,気が楽な一方で,なんだか農家の実態を反映しない状況で実験しているような引け目も感じます.この一帯の農家で灌漑設備を持っている人など見たことがありません.


農家の実態といえば,先月の中旬にWigaの旧実験農場を訪ねました.ちょうど2年前,ここのオチェングさんの土地を借りて,トウモロコシ畑の周縁に植えたギニアグラスが昆虫に及ぼす影響について野外実験をしたのでした.ギニアグラスでは害虫のズイムシが生育できない一方で,ズイムシを捕食するクモやハサミムシなどの数が増えます.ギニアグラスは牧草や屋根の材料としても使われているので,これを畑の周りに植えれば,生活資源としてだけでなく,トウモロコシの害虫対策としても有用ではないか,という結果を得たのでした.


当時の実験圃場の写真はこちら.圃場の周縁にギニアグラスが整然と植えられています(というか,僕が植えました).圃場の周辺に牧草を植えるだけなら簡単だし,害虫防除にもなるから良いじゃないですか!という話だったんですが・・・


それから2年後 の写真はこちら.圃場の半分ではトウモロコシが単植され,あとの半分は完全に打ち捨てられております・・・


農場主のオチェングさんは,ギニアグラスは根が深く張っているから抜くのが大変でさ〜,とこぼしておりました.ほんとはギニアグラスのおかげでハサミムシが増えてズイムシの被害が減っているはずなんだけどな・・・などと思いながら笑ってごまかす私.う〜ん.2年前にKhanさんが行ったアンケート調査によれば,ギニアグラスはこの一帯では農家の生活資源として一番人気だったはずですが・・・しかし考えれば,人の少ないWigaの周辺では放牧が主流なので,牛に餌をやるには草原に放しておけばよいわけだし,屋根の材料も,その辺に有り余るほど生えている植物を刈り取ってくれば用は足りるわけです.イネ科の牧草は,この地域ではわざわざ「栽培」するほどの価値は認められていないように思えます.ですので,せっかく畑の周りに植えるのであれば,たとえば牧草であるネピアグラスよりも,食料となる同属のトウジンビエなどの方が良いのかもしれません.その一方で,前回紹介したBungomaなど,畜舎を使った牧畜が行われている場所では,牧草が栽培されています.このような地域では,害虫抑制効果のあるイネ科の牧草を作物と混作することは意味のあることでしょう.同じ植物でも場所や生活の違いに応じて,人にとっての価値の大きさはまったく違うはずです.


Khanさんは化学生態学者ですが,彼が行っている研究プロジェクトは,活動の半分くらいが社会・経済学的な研究です.彼が開発した害虫防除法(プッシュ・プル法)が農民にとってどのように認識され,生活をどれだけ向上させるのかを調べています.私は2年前には,どうもこういう研究にはピンときませんでした.しかし,Wigaの様子を見て以来,農家の生活を詳しく知ることは非常に重要だなと考えるようになりました.研究の結果,いくら効果の高い害虫対策法が開発されたとしても,それが農家に受け入れられなければ意味がありません.農家の生活を詳しく把握し,「何が問題で,何がどのように満たされれば改善するのか」を分析することは,害虫管理法を普及させるうえで不可欠なんでしょう.




Bungomaからの帰り,キスム近くの赤道の標識にて.同行したイギリス人のP教授は気さくでよくしゃべる人だった.「ここでは俺の親父が写真を撮って,俺も写真を撮って,俺の息子も写真を撮ったんだ.親子三代だ.お前も写真を撮って欲しくないか?どうだ撮ってやろうか?」と繰り返し言われ,なんとなくそんな気分になり撮ってもらった一枚.Khanさんによれば,この標識は赤道から約50mずれているらしい.Khanさん,細かい.