戻ってきました

 Mbitaに戻ってきました.前回の滞在から1年3ヶ月ぶりです.まさか1年後に戻ってくるとは,そしてこの「ICIPE滞在記」の続編を始めることになるとは想像もしていませんでした.こうして戻ることができたのは本当にラッキーなことです.とはいえ,昨年の春にケニア行きが決まった時は,「よし,戻れる!」とか,「またアレが始まるのか・・・」とか,「就職,だいじょぶであろうか・・・」とか,いろんな気分が混ざりあって,正直に言って複雑でした.しかし実際に来てみると,「懐かしい!」「俺は帰ってきた!」というようなポジティブな感情が圧倒的ですね.Mbita最高です.定職さえあれば,ずっと居たいくらいです.それも問題か?とにかく,戻ってきたのです.ここは開き直って,やるっきゃありません.


 何をやるっきゃないか,というと,今回のテーマは2つあります.一つ目は,前回の研究の続きで,牧草を混植したトウモロコシ畑における捕食性節足動物とズイムシとの関係についてです.これはまた別の機会に書きますが,簡単に言えばいかにトウモロコシを,ウガリを害虫から守るかです.もう一つは,西ケニアで問題になっている,ネピアグラスの病気を媒介する生物の特定です.ネピアグラスというのはこの地域の代表的な牧草で,多くの人々が牛の飼い葉としてこの植物を利用しています.ところが近年,phytoplasmaというウィルスによる「Napier stunt」なる萎縮病がこの植物に蔓延し,深刻な問題となりつつあります.西ケニアでは,この病気によって飼い葉を牛に与えられなくなったため,人々がつぎつぎに牛を手放しているというのです.全ての「欲」のなかでも「食欲」を最優先する私としては,これはもう黙っちゃいられない話です.ネピアグラスは花を咲かせないので,人々は挿し木によってこれを殖やします.しかしNapier stuntは感染から発症まで数ヶ月,ときには1年もかかるため,潜伏期には株の外見上から感染か非感染かを判断できません.このため,感染株を挿し木で殖やしてしまうことが,Napier stuntの伝染の主な要因のようです.一方,ネピアグラスを吸汁するウンカやヨコバイ類によっても,phytoplasmaが伝染することが,さまざまな作物で知られています.ネピアグラスを吸汁する昆虫の中には,phytoplasmaの感染媒体となるものがいるかもしれません.これを特定しようというのが今回のテーマです.


 1月20日にビタに到着後,Napier stuntについて調べたり,研究計画を話し合ううちにあっという間に1月がすぎました.共同研究者のKhanさんは,Napier stuntがいかに深刻であるか,タカのような目で熱く語り,こちらも熱くさせられました.この人は.ケニアの農業や生活向上のことをつねに第一に考えているところが,かっこいいのですね.「研究は面白ければそれでよい」という,なんとなく信じてきた信条のようなものが揺さぶられます.前回の滞在に比べてKhanさんはよく話をしてくれるような気がします.前回の研究結果で論文を書いたことがこれに影響していることは間違いないでしょう.それもふくめて,お互いが相手のことを分ってきた,ということなのでしょう.


 さて,今回はこの辺にしておきます.前回の滞在では「ICIPE滞在記」というのを書いていました(現在は見れなくなっています).ビタはあまりにものんびりしたところで,ややもすると何もしないでダラダラして終わりそうなので,今回の滞在でも,研究の状況や印象を書き留めておく備忘録として「Oyoo のICIPE滞在記 II」を始めます.「Oyoo」というのは「小さな道」を意味する,私のルオ名です.2週間おきの更新を目標として,7月末まで続けたいと思います.


それでは,今後もよろしく.



ナイロビ在住Fさん宅にて産まれたカメレオンの子供(生後1日).カメレオンは,は虫類であるにもかかわらず,卵ではなく子供を19頭も一気に産み落としたらしい.親には鼻先に3本の立派な角が生えているが,子供にも既にちょこっとだけ角が出っ張っているのがカワイイ.出産に立ち会ったというFさんが純粋にうらやましかった.



ナイロビからナロク,キシイを通過してビタへ向かった.始めて通る道だが,なかなか道路状態が良好だった.しかし雨が降るとなかなか大変な道でもあるらしい.



アパートの裏の物干し場のあたりにカワセミらしき鳥のつがいが住んでいる.



ネピアグラスは,トウモロコシ畑の周辺に植えると,ズイムシの成虫(ガ)を誘引して畑内部への侵入を阻止する「おとり植物」の役割を果たす.この植物は良質の牧草でもあり,これを牛に与えることによって牛乳の生産が高く安定するという.刈り取った茎を適度な長さに切り,地面に差しておくだけで簡単に殖やすことができる.



Napier stuntに罹ったネピアグラス(左下).葉が黄色化し萎縮して,これ以上生育しない.西ケニアのBungoma周辺では罹患率が60%を超える.右上は健全なネピアグラス.



台所の網戸のそばでシュモクバエの仲間を発見!