グラス・プロジェクト

イネ科植物は,アフリカに331属2400種記録されていますが,人口の増大に伴う農地の拡大や過放牧によって,その多様性が急激に減少しています.イネ科草本のなかには,先日紹介したPush-pull法に使われるNapier grassのように,害虫防除に有用な種がまだまだありそうです.また,アフリカにおけるイネ科植物の面白い点は,これらが家畜の飼料や,屋根や日用品の材料としても利用されており,人間の生活や収入にも深く関わっている点です.ICIPEでは,イネ科植物を生物学的および社会経済的側面から評価し,保全するプロジェクトが2002年から始まっていて,私はここでお世話になっています.プロジェクトの主な目標は,(1) ケニアとマリで広範なサンプリング調査を行ない,イネ科及びそれを利用する昆虫類を調べる.昆虫や植物の標本やgermplasmを博物館やgenebankに保管する.データをもとに,害虫防除に有用と思われる種をリストアップする.(2) いくつかの(人の)コミュニティを対象とするアンケートにより,イネ科の利用のされ方やそれによる収益などを調べる.(3) これらの情報をもとに,イネ科を利用したcropping systemをコミュニティごとに開発する,というものです.これは想像ですが,プロジェクトリーダーのKhanさんは,(同じく彼が主宰する)「Push-pull法」を開発し普及していく段階で,それがそれぞれの地域の農家の生活様式とうまく合わない部分があって,このようなプロジェクトを考えたのではなかろうか,と思います.私が来た時には,132種のイネ科草本を対象とした2年間のファウナ調査が終了しており,このうち4種のイネ科を,それぞれメイズの畑の周囲に植えて,ズイムシによる被害率や昆虫相の調査を開始していました.

調査に同行してみると,イネ科草本ではメイズにくらべて,アリやハサミムシ,クモなどの捕食性昆虫があきらかに多いようでした.畑の周辺に植えられたイネ科草本は,ズイムシの産卵を誘引するだけでなく,捕食性昆虫の生息場所としても重要な意味を持つように思えます.「産卵トラップ効果」と「天敵効果」を組み合わせた実験区を作り,ズイムシの密度に対する2つの要因の影響を比較したいと考えるようになり,実験計画を立てました.いま調査が終わりかけです.調査の模様は,また改めて書きます.

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ケニアでは,NGOと連携して,農家の人たちにイネ科草本を使った編み細工(バスケット,マット,トレイなど)の製作法を教えている.

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Panicum maximumをつかったハンディクラフト.日本で売れると思いますか?

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Hyperrhenia rufaを使って屋根を葺いているところ.このサイズの屋根を葺くには,一束50Ksh(約75円)の草が40〜50束必要らしい.馬鹿にならない出費のはず.

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茅葺きの家.屋根は7,8年は使えるらしい.壁は,牛の糞と泥と灰を混ぜてつくる.