アシスタント

今週は火曜から木曜まで,Wigaの調査地でフィールドワーク.捕食性昆虫除去区でハサミムシやクモなどを採集した.捕食性昆虫の除去は,メイズ畑の1列おきに,列内の全株を対象にする.草丈2mに達するメイズの葉と茎をくまなく調べるので,屈伸運動が多くなる.アシスタントのポリカープによれば,1回の調査で一人当たり4000回ほどスクワットをしてるんだそうだ.3日目の木曜日には作業を終わらせたかったが,それまで2日連続で朝から夕方まで働いたためか,アシスタント達は働く意欲が失せているようで,どうにも作業が遅い.仕方がないのでニンジンをぶら下げてみる.「もともとこの調査には4日を見込んでいたので,たとえ今日中に作業が終わっても明日分まで給料を払う.今日頑張れば,あしたは休めるけど?」.果たして,かれらは休憩を一回もとらず,時折ぱらついた雨もものともせず,午後6時にはみごと作業を完了したのだった.アシスタントは,こういうちょっとした「お得」な話に大変こころ動かされるようである.おかげで金曜日は,彼らは働かずに日給200シルを手にし,私はガソリン代と昼食代と,時間を節約できた.

 私はいま不定期に5人のアシスタントを雇っている.人を雇うなど経験した事がなかったが,やってみると結構おもしろい.当初は,野外調査は自分一人でやるものと思い込んでいたが,調査地ができた段階で,どうやら一人じゃとても無理だと判った.こちらではワーカーを安く雇えるし,求職中の人も多いので,状況はお互いにとってラッキーであった.「明日ヒマだったら調査を手伝わない?」と突然頼んでも,「毎日最っ高にヒマですので大丈夫ですよ」という感じで,断られたためしがない.ICIPEでは7.5時間勤務で日給175シルという基準があるが,フィールドに行く日は朝も早いので,200シルで折り合った.これ約270円である.日給が日給なので,彼らが多少のんびり働いても構わないが,データをごまかしたりウソをついたら,次の日から仕事は与えない,と言う事だけは確認した.しかし,彼らはICIPEで働くことにプライドを感じているようで,今のところこの心配は杞憂だったようだ.虫を捕まえるのがなかなか上手いし,メイズやズイムシに関して,こちらが教えられる事も多い.私は先ほどのポリカープ君に,「記録をちゃんと取っておかないと,困るのは誰だと思います?アナタなんですよ!!」と説教されたことがあった.そのくらい,ちゃんとやろうとしてくれている.なにより若い人が共同で作業するので,賑やかなのが楽しい.フィールドでAMラジオを友として孤独に耐えていた院生時代とはえらい違いである.時折,「自分はノギスが使えるので給料を上げてほしい」とか,「ランチタイムに家で昼食をとれなかったので,昼食手当をくれ」とか,まったくメチャクチャな要求をされ口論になるが(たいがいは私が一蹴),次の日にはわだかまりをサッパリと水に流して頑張ってくれるので,こちらとしては大変やりやすい.こちらの人は,ハッタリが効いているかわりに,あきらめも早く,スカッとした性格の人がおおくて,本当に良いと思う.あと数週間で調査は終わるが,なんとか無事終了してほしいと思う.

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4月2日,実験区の設営が終わって記念撮影.左からVincent,Victor,Pollycarp,Amos, 土地所有者のOchiengさん.

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メイズの茎を定期的にサンプリングして,ズイムシによる被害率を調べる.6月12日.

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茎を解剖して,ズイムシの有無を調べているところ.

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飼育を担当するDavidは真面目でよく働く.安心して作業を任せられる,ピカ一のアシスタント.

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オチェングさんが履いていた,古タイヤ製サンダル.町で買ったらしい.こういう発想には感心してしまう.ブッシュを歩くには良いと言っていた.

ルオ人の名前

 先週,私の周辺で人口が2人増えた.研究室のアシスタントのサイラスに男の子が,私がアシスタントをお願いしているビクターに男の子が生まれた.サイラスは私と同い年の32歳で,奥さんが二人いるし,子供もいっぱいいる.ビクターは27歳で,2人目.サイラスは常勤だからいいとしても,ビクターに日給ン百円ばかりの給料を払っているわたしとしては,やりくりをちょっと心配してしまう.そういえば,彼は最近給料の前借りがやや多かった.もっとも本人はしかつめらしい雰囲気はまったくなし.ご近所や,友人や,親戚といったコミュニティーのなかで,「もちつもたれつ」で,明るくたくましく乗り切っていくんでしょう.

 知り合いに子供が産まれたら,子供と家族の写真を撮って,フォトペーパーに印刷し,プレゼントすることにしている.2人とも,病院から家まで,車で送りがてら,写真を撮らせてもらった.まだ産まれて2〜3時間後,子供は初めて太陽にあたって,何を思うのだろうか.家族写真では,カメラを前に父親がやたら晴れやかな一方で,お母さんはひどくしんどそうにしている.こんなもんかとその場は思ったが,じつは子供を産んで3時間で帰宅するなんて大変なことらしい.日本では産後1週間も入院するとか.それも長過ぎな気がする.

 サイラスの子はNickと,ビクターのはChrisと名付けられた.ビクターに,「それじゃChris Odhiamboだね」というと(ビクターの苗字はOdhiambo),そうじゃなくて,昼に産まれたからChris Ochiengだという.昼に産まれた子供にはOchieng,夕方産まれた子供にはOdhiamboとつける習慣らしい.そうすると,ビクターの奥さんを「Mrs. Odhiambo」と呼ぶのは,奥さんが夕方以外に産まれた場合,間違ってるかというと,問題ないという.日本と同じで,こちらの人の命名にもいろいろルールがあるようです.日本名が欲しいと言うので,「次郎」と名付けたら随分喜んでいた.「Chris次郎Ochieng」.どこの人だか分からんような気もするが,まあいいや.「小路」は「小さい道」のことだと言ったら,それじゃ「Oyoo」ですねとルオ名をもらってしまった.「小路Oyoo晋作」.「Doc」(多分Doctorの略)よりも,こっちの名前の方が地元っぽくて気に入っている.

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産婆さんの家の前で.左端がビクター君と「一郎(日本名)」.その隣が奥さん.

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次郎.

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産婆さんの家のすぐ裏の浜では魚を干していた.この写真を撮ったところ・・・

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10秒後にはこんな状態に.しかたなくもう一枚.

その後,Luo人の名前について,もう少し聞いたことを書いておきます.
・産まれた時間によって決まる名前:Omondi (午前4-6時),Okini (午前6-10時),Onyango (午前10-12時),Ochieng (正午-3時),Odiambo (午後3-6時).

・産まれた時の状況によるもの:Odoyo(畑の草取りの時期),Ouko(強風の日),Oluoch(曇天の日),Okechi(飢饉の時期),Ogola(納屋で産まれた場合)

これらは男の子の場合で,女性の場合は最初の「O」が「A」になるそうです.飢饉の時の名前があるのが面白いですね.
ちなみに,すこし調子に乗りまして,知り合いのOdoyo君�は「耕作」,Oukoさんには「風太郎」と和名を進呈したのでした.

Push-pull法

東アフリカで主食となっているメイズですが,面積あたりの収量は700-1800kg/haであり,アメリカの約7500kg/haと比べると大変少なく,輸入に頼らざるを得ない状況が続いているようです.この原因は主として鱗翅目のズイムシ類(stem-borer)と,寄生植物であるゴマノハグサ科のストリガ(Striga属,英名witchweed)であるといわれています.研究室のプロジェクトリーダーであるKhanさんは,これらをほぼ完全に防除する「Push-pull法」の考案者として有名です.「Push-pull法」は,畑の内部ではズイムシが忌避するデズモディアム(マメ科)を間作し(push),畑の周辺部にはズイムシを誘引するナピエルグラスを植えて(pull),トウモロコシの被害を減らそうとするものです.デズモディアムにはアレロパシーによってストリガを排除する作用があり,マメ科であるために土壌を肥沃にする効果もあるため,Push-pull法を適用した畑の収量は通常の1.5〜2倍になるという研究結果が出ています.殺虫剤や除草剤を使う事に比べればお金もかからず,ナピエルグラスとデズモディアムは供給量の安定した飼い葉となるので牛乳の生産量が増大するという効果もあり,二石四鳥くらいの方法といえます.Push-pullがズイムシの防除に有効である仕組みについては,デズモディアムがズイムシに寄生する蜂の誘引物資を出す事とか,ナピエルグラスはメイズ以上にズイムシの産卵を誘引するにもかかわらず,「のり」状の防御物質を出してズイムシの幼虫をトラップし,死亡させる事など,いろいろと面白い現象が分かっています(Push-pull法の詳細についてはhttp://www.push-pull.net/を参照).

 自分で調査して思った事ですが,ストリガの悪影響というのは相当なもので,これが生えている一帯のメイズは,丈が50cmくらいで止まってしまい(健全な株では2mを超える),色も黄色がかって,見るからに不健康になります.農家の人たちの話だと,かつては畑にストリガが生え出すと引っ越ししていたそうですが,最近は人口が増えて,そうもいかなくなってきたようです.ストリガを排除するデズモディアムの発見が,Push-pull法の成功した要因として大きいと思います.もうひとつ思うことは,このプロジェクトは研究成果の宣伝や「しくみ」づくりが上手いということです.NGOやメディアとの提携により,現在,ケニア国内だけでも2000戸の農家にPush-pull法が普及しており,タンザニアウガンダエチオピアモザンビークなどでも普及がすすんでいるそうです.また種子会社と提携してデズモディアムの種子の流通システムができており,Push-pullをおこなっている農家は種子を1kgあたり600-800Ksh(約1000-1400円)で売却する事ができます.プロジェクトには社会経済学者も参加しており,Push-pullの活動を通して農家の収益がどれだけ改善されるかについても調べています.

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ズイムシの1種Chilo partellus(メイガ科).1930年代にアジアから偶発的に侵入した.

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C. partellusの3齢幼虫.

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ストリガの1種Striga hermonthicaは一株あたり2万から5万の種子を生産する.種子は15年以上も休眠する事ができ,メイズが植えられると発芽して根に寄生する(写真はICIPEのホームページより転載).

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ストリガの繁茂した畑では,メイズの丈が大きく減少する.

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Push-pull法を取り入れた農場.畑の周囲に生えているのがナピエルグラス.畑内部ではメイズの畝の間にデズモディアムが植えられている.

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デズモディアムの1種Desmodium uncinatum

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ナピエルグラスは写真のような外来品種の牛は喜んで食べるものの,田舎で飼っている牛はあまり好まないとか.また,牛が放牧されている地域では畑のデズモディアムが食われてしまい,なかなか定着できない,といったところが難点らしい.

収穫

ケニアの人々の主食はスワヒリ語で「ウガリ(ルオ語ではKwon)」といって,トウモロコシの粉をお湯で溶いて練ったものですが,これに使うトウモロコシ(メイズ)は,日本でみかけるスィートコーンとは随分違い,粒の色が白いし,ずっと淡白な味です.村の食堂などにいくと,おかず一品に直径30cmくらいのウガリをドンと出してくれて,これが腹にガツンときてなかなかです(私は,少なくともパンよりは断然ウガリが好き).
私に調査地を使わせてくれることになったオチェングさん家でもメイズの収穫がありました.

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収穫期のメイズ.このくらい乾燥してカラカラになってから収穫する.

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収穫されたメイズ.粒の白いものが大半だが,黄色いのも混ざっている.近くでスィートコーンも栽培していて,混ざったからだそうです.

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収穫したメイズの粒を集めて乾燥しているところ.

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収穫期のランブェ川流域.この地域は雨が多く,乾期のまっただ中でも雲が立ちこめ,時々雨が降る.

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オチェングさん家でごちそうになった巨大ウガリソルガムの粉を混ぜると淡い小豆色になり,甘みが出てたいへんうまい.両脇は「スクマ」という野菜の炒め物と,牛の干し肉をトマトで煮たもの.牛のほうは猛烈な「けもの臭」がした.

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カップに入っているのは,メイズの粉でつくった粥の「ウジ(ルオ語ではNyuka)」.オチェングさんにはごちそうになってばかり.

サファリ

すっかりご無沙汰しておりました.1月は訳あってナイロビにしばらくいました.1月の下旬にビタに帰り,今は長雨期の調査にむけて,畑を耕し(てもらっ)たり.雑草の苗を大量に集め(てもらっ)たり,慌ただしく過ごしています.近況は後ほど書くとして,今回は,年末年始にナクルとアンボセリに行き羽をのばしてきましたので,その時の写真を載せます.しかし,サファリってのは,飽きる・・・.最初のうちはシマウマを1頭みただけでも感動して写真を撮りまくってしまうのですが,だんだん慣れてきてしまって,2日目には殆ど無反応で素通りしてしまう感じです.何度行っても感動して飽きない人もいるかもしれませんが,私はどうもそうではありません.

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ナクル湖のフラミンゴ.生きているのもたくさんいるが,地面に鳥の骨もたくさん落ちていました.ちょっと生臭かった.

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最近は湖の汚染でフラミンゴの個体数が激減しているそうです.ナクル湖の水量も,森林減少の影響で枯渇しつつあります.

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ナクル湖のほとりで出会ったウォーターバック

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アンボセリ保護区からみたキリマンジャロ

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アフリカゾウ.アンボセリにはゾウがたくさんいた.

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熟睡中のライオン.かなり老いたオスだそうです.アンボセリにて.

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サファリの最終日にチーターを見ることができた.

ナイロビ(2)

 10日ほどナイロビに行ってきました.今回の目的は,職員証などを受け取る事と,自動車の交換です.これまでICIPEでプロジェクトを続けてきた日本の国際農林水産業研究センター(JIRCAS)が引き上げることになり,JIRCASが使っていた小型のランドクルーザーを使わせていただけることになりました.またナイロビ在住の日本人や研究者にもたくさんお会いする事ができ,楽しい時間を過ごしました.研究者の中には2人,ビタに滞在した経験をお持ちの方がいて,ビタの情報(おもにカメレオンやカバなど.あとBob Copeland氏関係)もいろいろと手に入れました.あとは,ねじ切れてしまったレガシーの合鍵を作り直したり,いろいろお世話になったJIRCASのYさんへの餞別にUchumi(大手スーパーマーケット)の店員用シャツを入手したり(これは交渉が結構大変だった),こまごまとした用事をこなしました.近くの和食やら中華やらのレストランにも行きましたが,個人的に一番うまいと思ったのはインド料理!あとバーベキューも!!というわけで健康面は快調です.
 ナイロビは治安がかなり悪いようで,カージャックやレイプといった物騒な話は,新聞にも載らないくらい身近に起こるようです.私の滞在中も知人の雇い人が帰宅途中にバスジャックに遭い金品を奪われるという事件が起きました.パトカーのサイレンも毎晩のように聞こえますし,なんとなく落ち着きませんでした.ナイロビからの帰途,キスムからビタへの道はボコボコですが,村を通り過ぎるたびに子供らがギャーギャー騒ぎながら手を振ってくれるようになり(私はこの道を「キスムふれあいロード」と呼んでいる),「やっぱり田舎はエエ」と再認識しました.

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路上のバナナ売りたち.ナイロビ市内を走る時は,車の窓を,手を差し込めないくらいまで閉めておかないと,手を突っ込まれて物を盗られる危険があるらしい.

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和食レストラン「故郷」にて.天ぷらや鮨は日本のものと大差なく,おいしい.

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学振オフィスのジャンボ君.レガシーで乗り入れるたびに,車にのしかかって歓迎してくれた.

Rusinga島

 11月からアメリカ人のBobが研究室に加わりました.Bobはこれまでツェツェバエやミバエの防除のプロジェクトで働いていて,初めてICIPEに来たのが1973年ということですから,かなりのキャリアです.そのわりには,ビタの水道水を直に飲んで腹をこわしたりとスキだらけな側面もあり面白かったりします.ボストン出身なので,今年のレッドソックスの優勝は相当に嬉しかった様子です.ビタ周辺の地名や農家の名前を精通しているのには驚きました.以前ツェツェバエの調査でトラップを設置した時に,沢山の人と知り合いになったのだそうです.
 そのボブが,ビタのすぐ近くのRusinga島に行くというのでついていきました.Rusinga島は,本来は島なのですが,現在はビタの岸から陸伝いに渡れるようになっています.ボブのジープは,これまたすごいキャリアで,後ろから押さないとエンジンがかからないし,助手席のドアは内側から開かないし,窓を開けるとガラスが落ちてしまうので開けられないし・・・というようなツワモノでした.それでも,ボブは気に入っているようで,しきりと自慢していました.
 ビタが「片田舎」であるならば,Rusingaは「ド田舎」くらいの違いはあるようで,道には「俺の車だったら脱出できないだろうな・・・」というような巨大な「ピットフォール」が所々に現れます.小高い丘の頂上にマレーゼトラップを仕掛けたというので,ブッシュをなぎ倒しつつ半分くらい登り,丘の中腹に住むジェームスという人の家族に案内してもらって,トラップの回収に行きました.
 ボブは英語にスワヒリ語も交えて話し,土地の人や子供とすぐに仲良くなってしまうのが上手です.ジェームス一家とも,実に仲がいい様子なので,以前から知り合いなのかと思ったら,「この丘がトラップには良さそうな場所だったから,先週ここまでジープで登ってきて知り合ったんだ」とのことでした.こういう風に,赴くままに行動する人って,たまにいますよね・・・

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Rusinga島からの風景.ワンパターンだけれど,美しい景色.


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ボブの車.走行距離23万km,そのうちの殆どがブッシュを走ってきたという.となりがICIPE協会のレガシー(17万km)で,私はこれを使わせてもらっている.こいつもなかなかの風格.


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アロエ??